谷川俊太郎の詩「なんでもおまんこ」

 現代詩の重鎮と言える立場にありながら、今なおアグレッシブさを失わない詩人・谷川俊太郎。その近刊『夜のミッキーマウス』に「なんでもおまんこ」と題する詩が収録されている。以下、引用してみよう。

「なんでもおまんこ」

なんでもおまんこなんだよ
あっちに見えてるうぶ毛の生えた丘だってそうだよ
やれたらやりてえんだよ
おれ空に背がとどくほどでっかくなれねえかな
すっぱだかの巨人だよ
でもそうなったら空とやっちゃうかもしれねえな
空だって色っぽいよお
晴れてたって曇ってたってぞくぞくするぜ
空なんか抱いたらおれすぐいっちゃうよ
どうにかしてくれよ
そこに咲いてるその花とだってやりてえよ
形があれに似てるなんてそんなせこい話じゃねえよ
花ん中へ入っていきたくってしょうがねえよ
あれだけ入れるんじゃねえよお
ちっこくなってからだごとぐりぐり入っていくんだよお
どこ行くと思う?
わかるはずねえだろそんなこと
蜂がうらやましいよお
ああたまんねえ
風が吹いてくるよお
風とはもうやってるも同然だよ
頼みもしないのにさわってくるんだ
そよそよそよそようまいんだよさわりかたが
女なんかめじゃねえよお
ああもう毛が立っちゃう
どうしてくれるんだよお
おれのからだ
おれの気持ち
溶けてなくなっちゃいそうだよ
おれ地面掘るよ
土の匂いだよ
水もじゅくじゅく湧いてくるよ
おれに土かけてくれよお
草も葉っぱも虫もいっしょくたによお
でもこれじゃまるで死んだみたいだなあ
笑っちゃうよ
おれ死にてえのかなあ

森羅万象と交わることを夢想する男のまっすぐなリビドー。世界に向けて開かれたその感受性は、あたかも全身が鋭敏な生殖器になったかのようだ。これは(他の谷川作品がそうであるように)音読してみるとさらに滋味深い。じっさい、全国書店ネットワーク e-honのインタビュー記事では谷川本人が朗読してみせている。

当学会としては、このすばらしい詩が小学校の国語教科書に採用されることを切望するものである。